どうも、朝から鬱々真っ盛りの俊衛門です。雨降りすぎなんだよチクショウ。まあ、そんなことはともかく。
前回、刀剣の種類についてお話しました。今回からは実践編に入ります。最初は、「手の内」からご説明しましょう。
手の内、とは読んで字のごとく「手」の内、つまり握りのことです。刀剣は、ただ持って振り回しても斬れません。斬撃とは、刺突と違い非常に難しい技術なのです。たとえば、普段刀を使ったことのない剣道家がいきなり刀を使ってもうまく戦えないでしょう。今回は、斬撃に関する技術を私の知っている限りで記したいと思います。
……が、その前にまずは「片手剣」と「両手剣」について軽く触れたいと思います。
片手剣と両手剣――これは要するに、刀剣を片手で持つか両手で持つかの違いです。刀剣の長さや重さによって違います。
まずは両手剣。日本の剣術、日本刀を持つ場合は必ずといっていいほど両手剣です。左手を刃から遠い柄頭の方に、右手は鍔元近くを握ります。これは、利き腕如何にかかわらず必ず右手が前です。
日本剣術では、片手で刀を振ることはまずありえません。小太刀など、短い得物でないかぎり両手です。しかし、この両手剣は世界的に見るとかなり特殊な例です。
まず、西洋ではほとんどが片手剣です。右手に剣を持ち、左手に盾を持つという中世の騎士の姿を思い浮かべていただければよいかと。騎士が廃れ、甲冑を身につけなくなった時代でもやはり片手剣が主でした。中国でも、剣術や刀術はほとんど片手です。
とはいえ、両手剣がまったくなかったというわけではありません。西洋で両手剣といえば、ドイツ剣術や片手でも両手でも扱える「バスタードソード」などの特殊剣が挙げられます。中国武術では、日本刀が元になったといわれる「倭刀」や、棍術から派生したという「双手剣」などがあります。しかし、いずれも特殊な例で、両手剣オンリーの日本剣術は世界的に見てもかなり珍しい武術でした。
さて、これらのことを踏まえ、剣術における手の内を見ていきます。
まず、私の専門でもある日本剣術。前回、日本刀は薄く延ばしたカミソリのような刃であると書きました。その薄いカミソリが何層も重なってできたのが日本刀です。刀身は、軟鉄から玉鋼まで、いくつも重なっていることで耐久性を上げています。しかしそれでも横からの衝撃に弱いのは確かです。対象にまっすぐ打ち込まなければ、骨まで断てません。それどころか刃がこぼれ、刀身が曲がってしまうというおまけまでついてしまいます。まっすぐ斬ることを「刃筋を立てる」といいますが、この刃筋を立てるのは片手では容易ではなかった。だから、両手でしっかりと斬り込む必要があったのです。
使い方としては、まず日本剣術は肩を支点とした円運動を基礎とします。腕の力の配分は、左手が7、右手が3ぐらいです。これは、日本刀の特性からです。カミソリ刃はスライドすることによって切れます。切っ先から一番遠い、肩や左手を基点とした半円を描くことで、刃が滑るように肉をなぞる。それによって、対象を断つことができます。斬る瞬間、茶巾絞りといって両手を絞り込むように握ります。そうしないと、刀がすっぽ抜けてしまいます。これは現代剣道でも言われることです。この茶巾絞りができると、面とか小手を打った瞬間「スパン!」といい音がするわけです。
次に、西洋剣について。西洋の剣といってもいろいろあるので、ここではもっともポピュラーなロングソードについて説明します。
左手を中心とした日本剣術と違い、西洋剣術は右手を中心に切り込みます。両手でも片手でも変わりません。両手の場合は、左手は添える程度に握ります。これは、西洋の両手剣ももともとは片手剣から派生したことに由来します。西洋の剣は剣の重心を基点とした、てこの原理で斬っていきます。そのため、重心に近い右手のほうが操作しやすいのです。握りは親指を剣の平に沿わせ、左右にスライドさせて刃の裏表を使い分ける。手首と肘をやわらかくし、手首の返しだけで斬りつけていく……という使用法らしいです。もっとも、私は西洋剣を扱ったことがないのでこれは情報でしかないのですが。斬る瞬間に、やはり手の内は絞り込むように握ります。
このように、剣も刀も「斬る」事に関しては高度な技術が求められるわけです。だから、素人が刀剣で「斬る」など、本当は無理なのです。大東流合気柔術でも、「剣は斬るのではなく、突くものだ」と教えております。結局のところ、刀剣は突く方が簡単なのです。農民を兵士に育てる場合など刀剣を扱うよりも槍などを使わせることの方が多かったのはこのためでしょう。小説で、主人公に刀を使わせたい場合。いきなり刀剣を持って、それで斬りあいとかしちゃうと見る人から見れば「リアリティがない」となります。まずは、ちょっとでも練習させましょう。もしくは突きで勝つとか。まあ、あまりうるさいこと言うと、フィクションをフィクションとして楽しめなくなりますがね。
次回は、剣術における体捌きについて考察します。
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