今回、この
『夜狗-YAKU-』のような話を書こうと思った理由というのは、ギフト企画で書いた『マシナリー・クリスマス』があまりにSFとして中途半端で、自分のいいたいことの半分も描けていないと感じたからです。大体において、サイボーグやらアンドロイドと子供という取り合わせは王道なんだと感じますが、それにしたってその「王道」すら書けていない。そう考え、あえて「女サイバー戦士と少女」という組み合わせにしました。もっとも、前作の焼きなおしと言われるのも悔しいので、あくまで『夜狗』と『マシナリー・クリスマス』の世界は連続しているんだ、ということにしました。まあ、ほぼ後付けの設定なのですけども。
では、それなら加奈をただの「サイボーグ」とすればいい話ですが、もうひとつこの物語には「生命倫理」というテーマを与えようと思い、遺伝子工学やナノバイオテクノロジーに呑み込まれた世界、それによってないがしろにされる命といものを、ふと書きたくなり、「生体分子機械」やら「分子端末」やら面倒な設定をくわえることにしました。もちろん、ド文系な自分には理解に苦しむところが多々ありましたが、段々と分かってくると面白くなって「おーこういう技術があるのかー」と、まるでロボットや恐竜といったものにあこがれていた小さい頃に戻ったような気がしました。理系離れが叫ばれていますが、決して子供達は理系科目が「嫌い」なわけではないと思います。科学や不思議なものに対する好奇心は、いつの時代にも失われていないはず。知的好奇心を刺激してやれば、理系離れなんてことにならなくなるかもしれません。
っと、話が逸れました。それで、「生命倫理」というものを考えたとき、それは果たして自然科学ではなく社会科学の分野も多いに関わってくるのではと感じ、まず世界観をしっかりと作る必要があると思いました。自分は経済学部なので経済。ですが、それだけでなく政治や民族、法律も関わってくる……そういうことで、3ヶ月ほどは世界観作りに没頭していました。自分なりに、現在の日本が抱えている問題を取り上げたつもりでしたが……惜しむらくは、どれも中途半端に終ってしまったということです。人権擁護法案を基にした人権保護法、天皇のイデオロギーと日本人の民族性、“中間街”の差別と貧困など、全てを書ききることができず、なにやら漠然としたものになってしまい、悔やまれます。もっとも、エンターテイメントとして書くならばあまり踏み込んだ説明は要らないでしょうけど。
技術に関しても、やや疑似科学が混じってしまったのでこれは「SF」と呼べるのだろうか、という不安もありました。空艦艇“ハチドリ”に関しても、分子モーターのなんたるかも知らずに描写して、とある方から「リアリティが無い」と指摘されたり、ナノカメラやサムライ、強化外骨格など他のSF作品から拝借したものばかりになってしまった。もちろん、SF書き始めて1年余りのぺーぺーがオリジナリティ溢れるものを書くなんて、無理な話なんですが。ただ、他の方の作品を読むと、非常に独自の色に彩られている。うわべだけ真似した拙作は何なんだろうな、などとも感じました。
一番の心残りが、やはり加奈と鈴の心の交流でしょうか。前作『マシナリー・クリスマス』と、また同じ轍を踏んでしまったというのが、正直なところです。どうも、彼女らの結びつきが弱く、一体何を訴えたいのか分からないというものになってしまって、正直物語の肝となる部分がダメダメであるという感じになってしまいました。常日頃から、人間ドラマや心情描写が小説の核である、なんて大口叩いていた割には自分の実力はこんなものだなあと。天崎剣さんや藤村香穂里さんのような、細かな描写力は筆力もそうだけど、やはり経験が違うのかなーなどと思い知らされました。
それでも、レビュー下さる方々が戦闘描写がいい、世界観がいい、と仰ってくださったことは物凄く励みになりました。ただ、あまり戦闘には重きを置いていなかった(つもり)なのでやや複雑ではありますがw 今まで白兵戦を描いた事はあっても銃撃戦を描いた事はなかったので、戦闘が良い、と仰ってくださったことは素直に嬉しいです。けど、当分アクションは書かないでしょう(連載中の『監獄街』は除く)、当分は心情や人間ドラマを描けるよう、修行を積みたいと思います。SFはもちろん、継続して書きますが「SFアクション」というものはしばらく封印です。アクションは好きなんで、そっちのほうの修行は別途積みますが。
今回、「サイバーパンク」していたかどうか……それは自分が下すよりも、読んでくださった方々が判断するべき事だと思いますので多くは語りません。ただ、いろいろと課題の残る作品ではありました。読書量が足りないかなあとか描写力の問題かなあとか思いましたが、書いているときは楽しかったですし、企画ではこれほど多くのSF作品と出会えた、それだけで満足です。この物語はまだまだ未完成、彼らの物語を補完するにはまだ筆力が足りない。もっと精進せねば、と改めて感じました。
内容に関すること、これはこういう風に書いたとかここはこういう意味だ、ということは書きません。ただ、願わくば読んでくださった方々に何か残せたら、そう思います。
尚、今回『夜狗-YAKU-』執筆にあたり、以下の文献を参考にさせていただきました。
『バイオテクノロジー』 久保幹 新川英典 蓮実文彦 編著 大学教育出版
『ナノバイオ用語辞典』 山科敦之 編集 石原 直、落合 幸徳、馬場 嘉信 監修 オーム社
『バイオチップのはなし』 松永是 著 日刊工業新聞社
『ナノバイオマシン創製のための技術及び市場性に関する調査研究』
http://www.jba.or.jp/publish/publication/pdf/005_nano.pdf
『iPS細胞ヒトはどこまで再生できるか?』 田中幹人 編著 日本実業出版社
『人クローン技術は許されるか』 御輿 久美子 西村 浩一 鈴木 良子 福本 英子 北川 れん子 粥川 準二 共著 緑風出版
『生物と無生物のあいだ』 福岡伸一 著 シマダ文庫
『コウモリであるとはどのようなことか』 トマス・ネーゲル 著 永井均 訳 勁草書房
『機械の中の幽霊』 アーサー・ケストラー 著 日高敏隆 長野敬 共訳 ぺりかん双書
『旧皇族が語る天皇の日本史』 竹田恒泰 著 PHP新書
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