まあ、長物の武器と戦うときはどうするかといわれたとき、一番有効なのは懐に飛び込むということですね。槍だったら、一番危険なのは槍の穂先、刃部なのですから。その攻撃が及ばないところは、懐しかないわけです。ただ、先に述べたように相手の間合いに踏み込むことは地雷原に足を踏み入れることですから、危険極まりない。相手もさるもの、槍の操作に長けているわけですから少しでも動いたら串刺しでしょう。前に飛び込んで間合いを潰す、ということはなかなか難しいものです。剣道の選手が薙刀になかなか勝てないのも、この辺の理由があります。
まず、槍を相手に横に動いてはいけないとされます。横に動くことは、相手も眼で追いやすい。ゆえに、隙も出来易いということです。続いて、後ろに下がってもいつかはドン詰まりになりますからね。長物を相手にしたら、前に進むより他ない。ではどうするか。
ここで、中国拳法に目を移してみたいと思います。中国拳法といっても、武器や徒手、外家拳や内家拳いろいろありますが、私が読んだ文献のなかで特に、長物に対する技が載っていた八極拳の槍術から。写真載せられればいいのですが、無断転載になりますので文章のみで。
槍は点の攻撃、剣は線の攻撃と称されます。槍の点撃を、剣先で槍の穂先を制しつつ槍の柄の部分に刃を滑らせて切っ先をかわし、懐に入る。
はい、終了。
わかりにくいですか? ではこれは実際にやってもらった方がいいかもしれません。相手に棒を持ってもらい、自分はなにか新聞紙のようなものを丸めて模擬剣を作ってみてください。相手が突き刺す先端と切っ先を合わせ、そのまま新聞紙で中心に割って入るように踏み込みます。棒の部分に、新聞紙の模擬剣を滑らせるようにする。と、相手の棒の切っ先がそれて自分の剣が相手の喉下に到達することができる。このように、長物にはまず①接触し、②切っ先を封じたまま、③相手の正中線に剣を滑り込ませる。この動きです。ちなみに正中線とは、人体の真ん中を通る線のことを言います。この正中線を取りつつ、間合いに入り込めば己の剣が中心につけ、相手の剣は外れるという寸法です。
さらに、中国拳法では、特に棍術などに「螺旋の動き」というものがあります。これは③の段階で、剣、あるいは棍を螺旋状に回して相手の切っ先を完全に封じ込めるというものです。これは素手の体系にも生かされています。カンフー映画などの手技で、相手の突きを逸らして回しこむような描写があると思いますが、あのように突きを逸らし、絡めとって腕を極めるという技は、まさに武器が素手に生かされているというものです。ちなみに、合気道の短刀取りなんかでも同じように①相手の腕に接触②そのまま相手の腕に、己の手を密着させて封じ③相手の中心に割って入り、腕を極める という体系になっています。この技は、突いたらすぐに腕を引っ込めるボクシングのような格闘技には通じませんが、相手が武器、例えばナイフなどを持っている場合は有効です。ただし、専門の道場で訓練を受ける必要はありますが。
このように、相手の武器、あるいは体格の差で生じる間合いの違いを埋めるには相手の中心に割って入るように飛び込む、ということでしょう。もっとも、そんなテクニックよりも気合だけで退けてしまう技もありますがね。当流には、小太刀を持ったまま、気当たりだけで太刀の剣を下げさせる、なんて形があります。そこまでくるともはや達人としか……
次回は、先日出た対銃火器戦闘についてもう少し深く考察したいと思います。それと、卯月さんと議論した「蹴り技」についての考察もやりたいと思っていますので、早村さん教えてください(笑)
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