前回に引き続き、第二章の用語解説です。
・クローン
実際にクローンを造るには、ES細胞かiPS細胞を元にする。遺伝子技術によってクローン培養の食肉や植物の栽培を行い、先進国中最低水準だった食糧自給率を押し上げることにも成功する。ただし、クローン技術が適用されるのは動植物までであって、人間のクローンを生み出すことは生命倫理法で禁じられている。もっとも、再生医療が発達した2040年の世界でクローン人間を生み出すメリットはなく、法律で規制する必要性もない、という声があった。なお、生命倫理法ではクローン人間を生み出す行為を禁じているに留まり、実際に生み出されたあとの対策はなにも講じられていない。
・人権保護法
度重なる移民への差別問題を解消するために生まれた法律。人権を侵害すると思われる行為、発言などをした際は、人権委員会の査問にかけられて場合によっては逮捕・拘留される。元ネタは人権擁護法案。
・北方中華民連政府
通称、「北宋中華」。2025年の中華人民共和国崩壊に伴い生まれた、軍閥政府の一つ。国連から唯一、正式な中華政府と認められており、共和国とも国交を結んでいる。首都は開封、英語表記だと「North China」
漢民族による軍閥政府で、保守的な政策を執っている。明蘭の生まれ故郷、北京は現在は北宋中華の行政都市となっている。分裂中国には他に、江南政府、チベット独立戦線、ウィグル人民政府などの軍閥政府がある。共和国と江南政府は東シナ海の権益を巡って争っている。共和国に移住した移民たちのうち、60パーセントが北宋中華陣営の人間であり、国政にも大いに関わっている。
・択捉
択捉の民族戦線がロシア軍と衝突し、日本人の死者を多くだした。このことで共和国政府が軍を派遣したことから、択捉で内乱が勃発。2040年時点では小康状態であるが、いつまた再燃するかわからない状態。
・台湾
中国内乱により、独立を宣言した。米国とは国交を結んでいるが、共和国は正式に政府と認めていない。京都報国同盟に援助を行っている。
・光学迷彩
SF作品ではおなじみのガジェット。光量を調整して、対象を不可視化するというもの。方法としては1、光の屈折を捻じ曲げる、2、対象そのものを透明化させる、または3、カメレオンのように擬態させて周囲の環境に溶け込ませるなどの方法がある。今回は発光細菌を外壁に走らせて、周囲の光と同様の光量を発して周りに溶け込ませる3の方法をとった。現在でも光学迷彩は研究されており、イギリス軍が早くても2012年に光学迷彩搭載型の戦車を実践配備するという。
・短針銃
フレッチャー、ニードラーとも呼ばれる。銃弾ではなく、殺傷性の針を撃ちだす銃。普通は護身用であるが、加奈のものは通常タイプよりもマン・ストッピング・パワーの強い剛性のシリコン針と神経薬を内包した神経針を装備している。シリコン針100連発、神経針50連発のフルオート。ただし、生身の人間にしか効果がない。SF作品では空気射出タイプと電磁誘導タイプがあり、電磁誘導の方が威力は高い。が、2040年で電磁誘導型の銃が装備されているだろうかと考え、空気射出タイプにした。また、神経薬の他に水銀を内包した水銀針があり、涼子の短針銃には水銀針が装填される。
*最初の構想では、加奈は二挺拳銃遣いという設定でしたが、“特警”の人間がわざわざ非効率的な二挺拳銃を使うわけないと思い、この案は断念しました。が、二挺拳銃と言う設定が大好物なので、サブウェポンとして短針銃を持たせてみました。右にブローニング、左に短針銃……いいねえ(笑)
・九段暴動
天皇制の廃止とともに、東京九段で起こった暴動。靖国神社を焼き打ちしようとする政府とナショナリズム団体が衝突した事件。このとき、本庁勤務だった紫田と柳が邂逅し、以来2人は敵同士となる。この辺のエピソードは、需要があったらひっそりと載せようかと(笑) 多分、需要はないけど。
・オペレーションφ
“特警”のオペレーションの中でも、緊急事態に発動される。骨格、DNAなどのデータを元に、ネットから情報を収集して対象者の足取りを追うというもの。都市内の防犯カメラには骨格照合、車種照合機能がついており、市民の骨格のデータをネットから取得し、追跡することが可能。市民の骨格を取る、と言う行為はプライバシーの侵害になりうるのだが緊急の場合は許される。
・金属錯体
金属分子と化学種が配位結合して生まれた超分子。配位結合は、結合する一方の原子団をドナーとし、他方をアクセプターとして、ドナーからアクセプターへ孤立電子対を与えることで結合されること。蛋白質とシリコン分子を結合させて、新たな有機・無機連結型の超分子を組み込むことで身体強化を図っている、という設定。
・フラーレン、炭素クラスタ
代表的なナノ物質の1つ。炭素原子5個からなる五員環と6個からなる六員環によって、直径およそ1ナノメートルのケージ(籠)状の多面体を構成する。現在ではフラーレン、またはバッキーボールなどとよばれ、グラファイト、ダイアモンドに次ぐ安定した炭素同素体。
・臓器チップ
バイオチップの一つで、臓器の細胞をチップに固定して泳動させることで臓器と同じ機能を果たす。この臓器チップを集積させて、三次元的器官を造る。臓器丸ごと一つつくるよりも、有機物と臓器チップを連携させた集合体(クラスタ)を造るほうが現実的な再生医療とされている。生体素子集積体(バイオチップ・クラスタ)も同じものを指す。
次回は第三章についての解説をします。
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